MOSFETの損失の計算

本記事では昇圧コンバータにおけるMOSFETの損失を計算する。

MOSFETの損失は導通損失とCoss損失とスイッチング損失に分けられる。以下ではそれぞれの損失について計算していく。なおゲート抵抗による損失もあるが小さいのでここでは無視する。

導通損失

導通損失はMOSFETがオンしているときにRDSとIDによって生じる抵抗損失であり、以下の式で計算できる。しっかりと計算するには台形状のIDによる電力を求める必要があるがΔILがIINに対して小さければ近似式が適用できる。 

\begin{eqnarray} P_{cond} & = & R_{DS} \times ((I_{IN}+\Delta I_L/2)^2+I_{IN}^2-(\Delta I_L/2)^2+(I_{IN}-\Delta I_L/2)^2)/3 \times D \\ & \approx & R_{DS} \times I_{IN}^2 \times D \\ D & = & {t_{ON} \over t_{ON}+t_{OFF}} \end{eqnarray}

 Coss損失

Coss損失はMOSFETのターンオン時にMOSFETのCoss(概ねドレインソース間の容量にあたる)や浮遊容量Cpを放電することによる損失である。また整流ダイオードや同期整流MOSFETの接合容量Cj, Cossを充電する分も損失になる。充放電はスイッチングサイクルごとに1回生じるのでスイッチング周波数fSWに比例して損失が大きくなる。以下はCp,Cjを含む損失の計算式である。

$$P_{coss}=\frac{1}{2}(C_{oss}+C_p+C_j) \times V_{DS}^2 \times f_{SW}$$

MOSFETのデータシートを見るとあるVDSでのCossの値が記載されているだろう。しかしCossはVDSに依存して変化するためCossを充放電するのに要するエネルギーを正確に求めるためには以下に示すようなグラフからデータを拾って積分計算を行う必要があり手間がかかる。Cossが大きな損失要因でないなら使用するVDSでのCossの値だけで損失を計算しても良いが、損失を小さく見積もることになるのを心に留めておかなくてはいけない。

SiSS30DNのCoss特性

メーカーによってはCoss,ERという損失の計算にそのまま使えるCossの値を記載していることもある(ERはEnergy Relatedの略)。その場合はCoss,ERを上の式に代入すれば良い。

 スイッチング損失

スイッチング損失はMOSFETのオンオフが切り替わる際に生じる損失である。オンオフが切り替わる瞬間はMOSFETが不完全にオンした状態でありRDSが大きくなっている。その瞬間に流れるIDは大きな損失を生み出す。スイッチング損失もfSWに比例して大きくなる。

スイッチング損失の計算には各遷移時間を求める必要がある。以下のリンクはVishayが公開している計算方法である。(Device Application Note AN608A)
Power MOSFET Basics: Understanding Gate Charge and Using it to Assess Switching Performance

スイッチング時の波形 (AN608Aより引用)

上の図はターンオン・ターンオフの瞬間のMOSFETのVDS, VGS, ID (図中ではIds)の波形の例である。損失に関わるのは以下の4つの遷移時間である。

\begin{eqnarray} \mathrm{I_Dの立ち上がり時間}~t_{ir}&=&t_2-t_1 \\ \mathrm{V_{DS}の立下り時間}~t_{vf}&=&t_3 \\ \mathrm{V_{DS}の立ち上がり時間}~t_{vr}&=&t_5 \\ \mathrm{I_Dの立下り時間}~t_{if}&=&t_6 \end{eqnarray}

これらは以下の式で計算できる。

\begin{eqnarray} t_{ir}&=&R_{GH}C_{iss}\times ln({V_{GS}-V_{th} \over V_{GS}-V_{gp}}) \\ t_{vf}&=&R_{GH}\times{Q_{GD} \over V_{GS}-V_{gp}} \\ t_{vr}&=&R_{GL}\times{Q_{GD} \over V_{gp}} \\ t_{if}&=&R_{GL}C_{iss}\times ln({V_{gp} \over V_{th}}) \end{eqnarray}

ここでCissはゲート入力容量、Vthはゲート閾値電圧である。MOSFETのデータシートに記載されている標準値を代入する。

Vgpはゲートプラトー電圧である。MOSFET内部にはゲートドレイン間容量CGDが存在する(Crssと等価)。ターンオンの際にVDSが下降するとCGDを通じてVGSが引き下げられターンオンが遅れる。またターンオフの際にVDSが上昇するとCGDを通じVGSが引き上げられターンオフが遅れる。このようにCissが大きくなったように見える現象をミラー効果と呼ぶ。ミラー効果が起きている間VGSはVgpを維持する。VgpはGate Charge特性のグラフから読み取ることができる。以下の図ではVgp=4.2Vである。

SiSS30DNのGate Charge特性

QGDはデータシート記載の値を代入すれば良い。一般的に数値が示されているがGate Charge特性のグラフの平坦な領域の幅からも読み取ることができる。上図ではQGD=4.5nCである。

RGH,RGLはそれぞれゲートドライバがVGSを引き上げようとするときの抵抗成分(ソース抵抗、プルアップ抵抗)とVGSを引き下げようとするときの抵抗成分(シンク抵抗、プルダウン抵抗)である。下図で言えばゲートドライバの内部抵抗RsourceあるいはRsinkと外付けゲート抵抗RG、MOSFETの内部ゲート抵抗Rgの合計値である。

\begin{eqnarray} R_{GH}&=&R_{source}+R_G+R_g \\ R_{GL}&=&R_{sink}+R_G+R_g \end{eqnarray}

最後にVGSとはゲートドライバの電源電圧、つまり上図のVDDのことである。

求められた遷移時間からスイッチング損失を計算すると以下の式になる。なおこの式はVDSとIDの遷移が別々に起きることを仮定しているが現実ではオーバーラップしている。そのため損失を大きめに見積もっていることを念頭に入れておいて欲しい。

\begin{eqnarray} P_{sw}&=&\frac{1}{2}(I_{IN}-\Delta I_L/2)V_{DS}(t_{ir}+t_{vf}) \\ &+& \frac{1}{2}(I_{IN}+\Delta I_L/2)V_{DS}(t_{vr}+t_{if}) \\ &\approx& \frac{1}{2}I_{IN}V_{DS}(t_{ir}+t_{vf}+t_{vr}+t_{if}) \end{eqnarray}

0 件のコメント :

コメントを投稿